横浜地方裁判所 昭和56年(行ウ)9号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【解説】
訴えの利益について
請求原因1の事実<編注・鶴田豊に対する建築確認>は、当事者間に争いがなく、被告は、原告には本件確認の取消しを求める訴えの利益がない旨主張するので、まずこの点について検討する。
1 法によれば、建築主は、一定の建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例(以下「建築関係法令」という。)の規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならず(六条一項)、建築主事は、右の申請書を受理した場合においては、その受理した日から一定の期間内に、申請に係る建築物の計画が建築関係法令に適合するかどうかを審査し、審査の結果に基づいて右法令に適合することを確認したときは、その旨を文書をもつて当該申請者に通知しなければならない(同条三項)とされている。
したがつて、右の規定からすると、建築主事のする建築の確認は、建築物の計画が建築関係法令に適合しているかどうかを審査し、その審査の結果に基づいてなされるに止まるものであつて、それを越えて更に、当該建築物の敷地について確認の申請者が私法上の使用権原を有するかどうかを審査し、その審査の結果に基づいてなされるものでないことは明らかである。
してみると、建築の確認は、当該建築物の敷地についての私法上の使用権原の存否、帰属等につき何ら公権的な判断をするものではないから、建築の確認を得たからといつて、その申請者が、当該敷地につき私法上の使用権を取得するものではなく、また、申請者以外の第三者の当該敷地に対する私法上の権利義務に何ら法律上の効果を及ぼすものでもないというべきである。そして、建築の確認の申請者が、無断で他人の所有土地を当該建築物の敷地として確認申請をし、その建築の確認がなされた場合であつても、右確認により右土地の正当な権利者の権利は何ら左右されないのであるから、右権利者は改めて右土地を敷地として建築の確認を受けることができるものと解される。
したがつて、本件確認により原告主張のような侵害が生ずるものとは到底解することができない。
2 原告は、被告が、鶴田の申請に係る建物が三軒長屋式の共同住宅であることの調査義務を怠り、その建築を黙認したことにより、火災発生の危険の増大及び居住環境の低下がもたらされ、また、将来において土地の権利関係が複雑になり、あるいは土地をめぐつて紛争が生ずる可能性が多いとして、これにより本件確認の取消しの訴えの利益があると主張するので、これについて次に検討する。
法は、建築の確認の申請について、所定の確認の申請書の提出を求め(六条一項、八項)、右申請に対する確認のための審査については、所定の確認の申請書を審査して行うものとしている(同条二ないし四項)。
してみると、建築主事のする建築の確認の審査は、提出された確認の申請書に基づく書面審理で足りるものということができる。もつとも、法は、建築主事が、建築主等に対して建築物の構造等について報告を求めることができる(一二条三項)とし、また、建築主事が、建築の確認をする際に、当該建築物等に立ち入り、建築物等を検査し、若しくは試験し、又は建築主等に対し必要な事項について質問することができる(同条四項)と規定している。しかしながら、これらの被告の徴求、立入検査等は建築主事の権限であるに止まり、その行使が義務付けられたものではなく、あくまでもその行使は建築主事の裁量に委ねられたものと解するほかはないのであるから、前示の建築の確認の審査方法を左右するものではない。
そうすると、鶴田が、本件確認に先立ち、被告に対し、一戸建住宅の建築の確認を申請したことは当事者間に争いがないのであるから、被告としては、鶴田から書面上一戸建住宅の建築の確認の申請があつたものとして審査をすれば十分であつて、更に右申請が真実一戸建住宅に係るものか、あるいは三軒長屋式の共同住宅に係るものか等について調査する義務はないものといわなければならない。結局、原告の前記主張はその前提を欠き、失当であるといわなければならない。
3 以上説示のとおり、原告は、本件確認により法律上保護された利益を何ら侵害されるものではなく、また、原告が将来発生するとする損害の主張も、その主張の前提を欠いて失当であるというべきであるから、原告には本件確認の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するということはできない。
(小川正澄 吉戒修一 須田啓之)